前橋のS邸




1)改修計画について

38年のRC住宅の改修計画である。敷地は駅から近い場所にあり、新しい建物と古い建物が共存しながらも建て替えの更新が徐々に進んでいる地域である。施主は夫婦で服飾の創作活動をしており、ファッションデザイナーの海外コレクションのための制作を担いながら自身のブランドも運営している。より広い制作の場を求めて都心から前橋へ移住を決断し、この住宅のポテンシャルを評価して購入された。既存住宅はシンプルな白い箱であり、経年劣化は見られたものの比較的躯体の状況は良好であった。ここに親子3人のための仕事場兼住宅を計画する。施主の要望は大きく2つあった。                                                                                                                            
①2Fをスケルトンにして居住スペースを再度整えること                                       
②ガレージを創作活動の場にしたいため、前面開口部に大きなスクリーンを製作したいこと                       改修を考えるにあたり、まずは建物の基本的性能を担う部分、防水や劣化部分の補修・メンテナンスを優先した。次に生活に必要な部分、今回は工事費が読めない部分も多かったため、早めに概算をとって改修項目と金額をセットにしてリスト化をした。

2)RENOVATION in progress

ひとつの方向性として、まず一括して施工会社に依頼することをやめた。ある所までの工事を施工会社に依頼し、次に一部を分離発注し、その他は自力施工で住みながら徐々に手を加える方針とした。この方法は正攻法ではない。現場がうまくコントロールできないと混乱を招くことになるからだ。しかしながら住まい手が創作活動を行う作り手であったことがこの方法を可能にした。材料は汎用性の高い即物的なもののみを使用し、後に手を加える際も容易に入手可能なものに限定した。設計者としては描いた図面の完成を目指すだけでなく、手が離れたあとに進むであろうかたちを想像して配慮することにも留意した。

そうこうする間に一区切りがつくところまでうまく工事は進んだ。今後は住まい手にバトンタッチをして、完成形が定まらないままのリノベーションが続いていく。住まい手が普段行う創作活動も普通の服の作り方ではない。通常は服に使わない材料や素材で試行錯誤を繰り返しながら定まらない完成形を目指すのだ。このリノベーションもその創作の一部、またはその延長として、新たな創作の場になることを設計者としては願っている。従って今回撮影した写真は竣工写真ではなく、進行中の記録写真として位置付けている。




3)3つの空間

全体の構成は、1Fを創作の場、2Fを居住スペース、それらとつなぐ階段室という大きく分けて3つの構成になっている。これは既存住宅の構成をそのまま継承しており、躯体に関してはできるだけ手を加えない。改修にあたってはこの3つの空間がそれぞれ異なる質、機能をもちながら、自律した空間をもつ。

1F                                                               創作の場は既存のコンクリート打放し仕上げがベースとなる大きなガランドウである。南面の開口部には中空ポリカボネートでFIXスクリーンと大きな建具を製作した。中空ポリカボネートはリブで補強された強度、断熱性が高いものを使用し、外部から光を取り入れつつ、屈折したゆがんだ風景を映し出す。外からは気配やシルエットだけがぼんやりした状態で映る。内部の造作は今後、住まい手自身が設えることとなる。





©TATSUYA KOBAYASHI

©TATSUYA KOBAYASHI

2F                                                               居住スペースは大きなワンルームの中に寝室のみ個室を設えた。メインの仕上げはラワン合板と石膏ボードの塗装仕上げである。個室の位置は大きなワンルームの中に明暗をつけ、空間に濃淡をつける。なんとなく使い方が浮かびあがるような位置を慎重に決めた。断熱は壁・床をフェノールフォーム、天井にグラスウールの内断熱を施した。今後は外断熱を付加してさらに居住性を高めることも検討している。












階段室                                                             仕上げを剥がした状態の下地コンクリートのスケルトン仕上げである。パテの跡や墨の痕跡がそのまま残る。この部分は外部-1F-2F-屋上をつなぐ縦にのびたトンネルである。すべて下地用のコンクリート仕上げのため、荒く、暗く、音も反響して足音が響き渡る。このトンネルはプライベートと仕事、外部と内部、若しくは気分を切り替えるための空間の緩衝帯となる。


©TATSUYA KOBAYASHI

4)大きな軽い建具と間仕切り壁のディティール

ガレージの間口は6.5mx2.4mあり、そのうちの2.7mは車で搬入できるように可動式建具とした。建具の大きさは約2.7mx2.4mとなり、かなり大きくなることから重量が懸念された。そこで木製の枠組みに面材は軽量でかつ耐候性・断熱性能が高い中空ポリカボネートを選択した。中に斜めにリブが入っており、剛性も高い。全体の重量は70kg程度となり、片手でも容易に開閉が可能な重さとなった。部材断面はFIX部の方立ては60x120材の@1250とし、建具は60x60材の@650とした。建具の見込みは60mmをこえると金物が特注品になってしまうため、耐風用にピッチを細かくしつつ、アルミチャンネルを剛性のみ評価している。また3本の横桟は可動時の面内横力に対して5本の縦材への力の分散とめり込みによるフレームの変形防止に作用させ、斜材を省略した。 間仕切り壁は間柱をアラワシにして片面は面材を省略している。面材の位置は寝室側を面とし、リビング側に間柱をアラワシとした。こうすることで寝室が裏とならず、またリビング側も気積が大きいので部屋の中の箱のようになる。部材断面は垂木で使用する45x60材を@455で配置し、面材は3x8版のラワン合板をほぼ真物で使用した。接合は釘と接着剤を併用することで面外剛性高めている。


 

基本データ  

建物名称|前橋のS邸
所在地 |群馬県前橋市
主要用途|仕事場+住宅
家族構成|夫婦+子供1人

設計
設計 KMR・建築事務所|KMR・Architects
設備 KMR・建築事務所|KMR・Architects 
環境解析協力  トミ設計室 

施工  
サクラ建設

建具製作
宮前木工所

構造
構造 RC造 
基礎 布基礎

規模  
階数 地上2階
軒高6,600mm 最高高さ7,000mm
敷地面積 151.46m2
建築面積 92.46m2
延床面積 191.71m2

設備  
暖房方式|ルームエアコン
冷房方式|ルームエアコン
換気方式|第三種換気
給水方式|公共上水道直結
排水方式|公共下水道直結
給湯方式|ガス給湯器




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